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[ProjectionMapping]Vol.05 プロジェクションマッピングの現場から02〜パビリオン「『龍馬伝』幕末志士社中」「想い-龍馬の手紙より-」〜

2013-05-27 掲載

txt:石川幸宏 構成:編集部

日本型PM表現への挑戦が始まる

著名な場所でのビルの壁面等の利用で、ここ数年でその認知度を増してきたプロジェクションマッピング(PM)だが、こうした形式以外でもPMは空間演出の手法として様々なものが存在する。ショーケースのディスプレイングや空間デザインとして、 またイベントや舞台美術としての利用など活用場所も様々だ。そして次へのステップとしてそこにもう一つ、日本独自のコンテンツとしての魅力が求められているという現実もある。

高知県のJR高知駅南口にある、同地の勇、坂本龍馬を題材にした高知県観光コンベンション協会のパビリオン「『龍馬伝』幕末志士社中」。ここは平成22年度(2010年)放送のNHK大河ドラマ「龍馬伝」で使われた坂本龍馬の生家のセットが屋内に忠実に再現展示されているが、ここでこの4月20日からPMの手法を活用した新しいカタチの上演イベントとして「想い〜龍馬の手紙より〜」が上演されている。

これは龍馬の姉、”乙女(おとめ)”のナレーションと、オリジナルのサウンドトラックとともにセット内にある3面の障子にPMで映し出される鮮やかな映像で、物語が上演されるという作品だ。映画のようなストーリーテリングに則った表現方法、期間限定ではない常設展示という新たなPMのとして活用の場、そして障子など和風空間のへ投影など、オリジナリティ溢れる新たなスタイルのPMコンテンツとして、その作品性、エンターテインメント性にいま注目が集まっている。この制作に当たった3人のクリエイターに話を伺った。

2013may_pJm_05_ryoma_01.jpg 左から:クリエイティブディレクター 土肥 武司氏、映像ディレクター 佐々布 伸哉氏、画家・グラフィックデザイナー 深沢 尚宏氏

個人クリエイターの共同作業から生まれた作品

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「想い〜龍馬の手紙より〜」が興味深い点は、3人の個人クリエイターによる共同作品であること。また地方自治体の観光事業の一環としての制作依頼案件だが、特定の会社が受注したものではなく、制作体制自体も3人の個人クリエイターの共同作業で成立していることだ。土肥氏と佐々布氏は神奈川・逗子市で昨年開催されたプロジェクションマッピングのコンテストに応募参加し、作品の作風が高く評価され審査員賞を受賞、それをきっかけに今回の作品制作受注へとつながった。

土肥氏:この作品では、一般的なPMの作品で使われるような映像の特殊効果的なギミックを多用するのではなく、ちゃんと作品として何かを伝えたいという視点で制作しました。この点については、制作前に佐々布さんと何度もミーティングを重ねました。PMはその場所を空間演出するための1つの方法なので、今回も日本家屋における空間演出ということを念頭に制作しました。今回はそこにビジュアルのテイストとして、和風の美しいグラフィックが欲しいということで、ちょうどそのタイミングで深沢さんと知り合うことができ、この3人での制作体制になりました。

佐々布氏:(作品を作るにあたって)お客さんがこの作品を観たときに何かしらの感情を持って帰って欲しいという思いがありました。通常PMは、何か映像が飛び出してきたり、映像が面白い動きをするといったところに注目されますが、この作品ではその部分が目立つのではなく、あくまでお話の中でそういうギミックが効果的に使われているというカタチにしたかったのです。その上で終わったあとに何かが心の中に残るような作品を目指しました。

2013may_pJm_05_ryoma_03.jpg

主にストーリー構成と3DCGを担当した土肥氏と、作品全体の構成をトータルディレクションしつつコンポジットを担当した佐々布氏、この2人の映像系クリエイターに加えて、画家であり、グラフィックアーティストでもある深沢氏とのコラボレーションというカタチで、この作品の制作が始まった。深沢氏の作品は和風テイストの中にも現代アートの風合いが色濃い独特の世界観を放っており、その作風に現代っぽさや斬新な表現を求めたという。

深沢氏:僕は普段は画家として、またグラフィックのアーティストとして活動していて、今回の作品ではパーツとなるグラフィックを担当しています。実は映像に絡んだ仕事というのはこの作品が初めてで、最初にお二人から依頼を頂いたときは自由にやっていいということでした。そこで最初に出したのはもっとPOPな作風だったのですが、佐々布さんからもっと水墨画的な作風で!といった随処での指示を頂き、修正していきました。どれも一枚絵ですが各パーツごとに別れているという作品を提供し、それは後に佐々布さんたちによって動画としてのコンポジットなどの操作がし易いように作っています。

今回のためにオリジナルで作ったものが大半ですが、いくつかは過去の自分の作品のパーツを提供している部分もあります。普段は自分の作品はひとつの作品として完成していることが前提ですが、今回はPMのパーツとしての素材提供ということで、後でいじるのが前提の作品だったので、後で「こうやったのか!」という新たな発見もあり、興味深い経験でした。出来上がったものを見せて頂いたとき、良い意味で自分の作品が「裏に隠れている」なと思いました。映画でも何でもそうですが、良い作品というのはそうあるべきだと思っていたので、自分でも満足のいくものになりました。

龍馬への熱い思いとPM

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今回の作品は従来のPM作品と大きく違う点として、無期限の常設展示であり、しかも狭い空間で約10分のストーリーを限られた空間で観客に見せるという、極めて映画に近い上演方法だということだ。しかも”和風アイコン”の象徴とも言える「障子」への3面リアプロジェクションによるもの、そして坂本龍馬という、著名な地元の勇士を表現するということで、様々な試行錯誤がなされた。

土肥氏:高知に行くとわかりますが、地元の方の「龍馬」への愛情は半端ではありません。なので下手なことはもちろん出来ないと感じ、まずこのお話を頂いたときからかなり坂本龍馬について勉強しました。NHKの「龍馬伝」はオンエア時も観ていましたが、これももう一度見直しました。難しかったのは高知には、歴史人物としての本当の「坂本龍馬」と、NHKの大河ドラマ「龍馬伝」の福山雅治さんが演じた龍馬の、2つの”龍馬”が存在していること。そして双方は龍馬なのですが、史実やイメージとして合致していないところも多いのです。

しかし観に来る方はそのどちらも期待してくるわけです。そこで大河ドラマと同じ事をやっても意味は無いので、そこを考慮しつつ観客のイメージを壊さないために、まず映像自体には「龍馬」を登場させてはいけないと考えました。そしてこの作品の主人公として龍馬の姉である「乙女」にフォーカスさせることで、よりオリジナル性を演出しています。大河ドラマの「龍馬伝」からもそのセリフは一部を引用して演出しています。とはいえストーリー重視ばかりだとPMとしての面白みに欠けるということもあり、クライアント側の斬新な表現への期待もあるので、PMならではのエフェクトなども随所に織り込みながら、ストーリーを展開させるところは苦労しました。

佐々布氏:この作品は、納期も短時間でHD3面×10分で完全にAdobe After Effectsの作業だったので、レンダリング時間や作業工程を考えると、最初はどう作ったら良いのかそのワークフローを考えるだけでも大変でした。特に難しかったのは、3面の障子面にリアプロジェクションで投影するのですが、前からプロジェクションできないため格子を面として捉える事ができませんでした。そのハンディをどうプラス方向に持っていくのかというのもテーマでした。また3面なので観客が見逃すところが絶対に出るんです。そこは音がサラウンドなので各所の見どころは誘導しているのですが、1回だけ見ても満足出来ないような作品になっているので、それもリピーターを呼べるきっかけになればと考えました。

我々が普段目にするPM作品はギミック的な映像的エフェクト=観る側にとっての驚き・インパクトがメインといったイメージが強いが、常設上映という条件ではこうしたギミックはすぐ飽きられてしまう。また他の物まねでも長続きしない。そういう意味で、空間演出のためのPMには、技術的な知識と同等に演出部分でも細かい配慮と計算が必要になってくる。

土肥氏:この作品は常設展示でずっと上演されるものなので、数年後も残る作品となるわけです。一過性のギミックや雰囲気で作るPM作品は僕らの本意でなく、10年後でも鑑賞に耐えうるものを作ろうという意識もあって、そこは制作にあたって一番気をつけた所ですね。今後は高知に行ったら「あれは見ておいた方が良いよ!」というものになって欲しいと思っています。

クリエイター同士のコラボが、新たな作家性を育てる

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外郭スタッフとサウンド制作以外のコンテンツは、ほぼこの3人だけで作り上げたプロジェクトだが、こうした個人のチームとして作り上げる作品制作の魅力は、フットワークの良さと、個人の作家性を如何なく発揮できるところである。それにはこうしたチームで作品を創作する際に必要な条件として、まず各個人が出来る事を全て出しきり、そこに出された素材をどうまとめていくのかを全員で考え紡いで行くという行程が必要で、最終的に良いモノに仕上げていくという体制をまずは作れるかどうかがポイントだ。

深沢氏:基本的に僕はいつも一人で作品を作っているわけですが、今回は3人の合作ということで、後の佐々布さんや土肥さんの作業の迷惑をかけてはいけないと出来るだけ早く素材を作るようにしたりなど、チーム作業で作品を作るという経験は僕にとってとても新鮮でした。

佐々布氏:ヒエラルキーを作りたくないというか、「これを作って下さい!」となってしまい、それはただトップの人の見えてる絵を作ってもらうというだけになってしまいますが、そうではなくて自分の想像している領域の部分を楽しみたいというところもあるので、まず最初は思いつくもの考えられるものをとりあえず全て出してもらって、それを最終的にゴールへと編集していくという方が作品として良い物になると考えています。そうすることで各々の100%の想像部分を少しでも飛び越えられるのでは?と思っています。

土肥氏:作業期間は本当に短くて大変でしたが、なぜモチベーションが上がったか?と言えば、それはこの作品は単なる請負仕事ではできないことができるという部分と、「自由にやっていい」という条件で自分たちの作家性が出せると思ったからでした。クライアントさんはギリギリまでどんな作品になるんだろうという気持ちもあったようですが、最後にはかなり気に入って頂けたようなので、僕らも満足しています。

PMはいま日本では、広告手法の一手法的な捉え方が一般的となっているが、実際は映像技法を使った空間演出の中の一つでしかなく、そのなかでCGをはじめとする映像が大きな位置を占めているものだ。これからPMがもっと日本のクリエイティブの中で成長していくためには、空間演出としての技術部分を極めて行く必要があるだろう。

「想い〜龍馬の手紙より」
  • 会場:「龍馬伝」幕末志士社中(所在地は高知県高知市北本町2丁目10-9、交通は高知駅南口に隣接)
  • 上映スケジュール:1日3回(10時30分~、12時30分~、14時30分~、平日・土日祝共通)。上映時間は約10分、定員は20名。


Vol.04 [ProjectionMapping] Vol.06

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[ DATE : 2013-05-27 ]
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