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DaVinci Resolve 14の話題の一つは、Fairlightオーディオの組み込みだ。編集とカラーコレクション、MAが1本のソフトにまとまり、各作業をコンフォームなしでシームレスに行き来できるというのは画期的な出来事である。そこで、新しく統合されたFairlightとは何なのか?Fairlightでどのようなことが可能なのか?をBlackmagic Designのテクニカルサポートマネージャー岡野太郎氏に話を聞いてみた。

Blackmagic Design テクニカルサポートマネージャー 岡野太郎氏

DaVinci ResolveにFairlight機能のすべてを搭載

――2016年9月に買収を発表したFairlightとは、どのようなメーカーですか?

岡野氏:Fairlightは1975年の設立で、40年以上の歴史があります。たまたまなのですが、Fairlightの創業地はBlackmagic Designと同じオーストラリアです。もともとシンセサイザー等を作っていたメーカーで、1980年代や1990年台に一時ブームを起こしました。その後シンセサイザーは撤退して、Blackmagic Designが買収する前まではハイエンドのポストプロダクション用オーディオのMA機材がメインの事業でした。

FairlightのMA機材は、各国のハイエンドの放送局を中心にシステム導入されています。国内でも放送局やポスプロに導入されており、一部では22.2マルチチャンネル音響のハイスペックなオーディオポストも担っています。

Blackmagic Designでは現在、Fairlightブランドのどのような製品を取り扱っていますか?

岡野氏:Blackmagic Designの製品ページでは5Bay、3.3Bay、2Bayの卓を紹介していますが、現在Fairlightブランドの卓は販売を停止中です。ですので、今から新規にFairlightの編集室を作りたいという希望があっても残念ながらできかねます。ただ、すでにFairlightの卓をお持ちの方は、引き続き弊社からサポートを受けることができます。

Blackmagic Designブランドの卓はまだ発売を開始していませんが、今後Fairlightの卓をBlackmagic Designの仕様にカスタマイズしてリリースする予定です。

DaVinci Resolve 14にFairlightオーディオページが追加されましたが、Fairlightのどの製品の何を搭載したのでしょうか?

岡野氏:Blackmagic Designとしては、Fairlightの持つソフトウェアの機能を制限することなくDaVinci Resolveに搭載することを目標としていました。DaVinci Resolve 14のFairlightには追加でインストールが必要なオプションなどもありませんし、現在リリースされている状態でさまざまなコーデックが読み込み可能で、トラックに関しても制限なく並べることができます。

もしすでにFairlightを使っていたという方であれば、今までのFairlightのソフトウェアにあった機能の多くがDaVinci Resolveの中に入っていると思っていただいて間違いありません。

――DaVinci Resolve 14 Studioでは税別価格33,980円と大幅に安くなりましたが、これまでFairlightのソフトウェアはいくらで販売されていましたか?

岡野氏:基本的にFairlightはソフトウェアだけの導入はありえないので、価格をお答えすることはできません。また、現在、Fairlightの機能をソフトウェアだけ先にリリースしているというのは異例のことで、過去のFairlightの歴史の中でもありません。

それを踏まえて言えば、現在のDaVinci Resolve 14の中のFairlightというのは、従来のFairlighの卓がないだけのものと捉えるとわかりやすいと思います。ソフトウェアとしてできることは従来のFairlightとほぼ同等のところを目指しています。これから卓がリリースされれば操作性もさらに満足いくものになると思います。

――従来のFairlightからDaVinci Resolveに統合されて、Fairlight自体のユーザーインターフェイスは変わりましたか?

岡野氏:変わりました。やはりDaVinci Resolveのほかのページとの整合性を考えて変更しています。ただ、今年のNABの会場でFairlightのユーザーさんは、以前のFairlightのUIの配置などをかなり参考にして作っているので迷うことはないだろうとおっしゃっていました。

あと、DaVinci Resolveの中のFairlightは、従来のFairlightの卓で動きます。すでにFairlightの卓を持っているユーザーさんはそのままDaVinci Resolveを導入していただければ操作は可能です。実際にNABでも、Fairlightの卓とDaVinci Resolveを組み合わせて紹介をしました。

編集、カラー、MA間をレンダリングやコンフォームなしで行き来できる

――Fairlightと他のMAソフトは具体的に何が違いますか?

岡野氏:Fairlightは、オーディオのポストプロダクションの中でも特に放送局のポストプロダクションがメインです。あらかじめ素材があって、それを30レイヤーや60レイヤーをいっぺんに並べて、それでミキシングをするという用途に使われています。その際にジョグやフェーダーを使いながら軽快に作業ができるというのがポイントです。システムで導入することで、日々のポスプロ業務を高品質かつ短時間に実現できます。

また、他のMAソフトとの比較で一番大きところは、Fairlightオーディオがソフトウェアではなくて、あくまでも1つのページであるというところです。たとえば、クリップに「テキストを入れたい」と思ったときに、従来のMA段階ではすでに遅いわけです。ただ、DaVinci Resolveであれば「エディット」ページも統合しているのでMAの最中でも「ここでエディットに移動してタイトルを入れよう」ということが可能になるでしょう。

MAの段階でタイトルを追加したいという場合でも、DaVinci Resolveならば可能。「エディット」ページに移動してタイトルを追加

右上に注目してほしい。「エディット」ページで追加したタイトルは「オーディオ」ページに移動しても即プレビューできる

また、編集をしながら、ちょっと音声がおかしいところに気がついたら、「M」キーを押してマーカーを打ちます。例えば、このマーカーを3つ追加して、Fairlightのページに行くとそのままマーカーがFairlightのページにもあります。エディターさんが「音声おかしかったよ」とマーカーを打って、インデックスのほうに移動するとサムネイルに表示されるわけです。このように各ページがシームレスに連動しているのは大きいです。

「エディット」ページでタイムラインにマーカーを追加すると、マーカーがタイムラインルーラ上に表示される

「オーディオ」ページに移動しても、先ほど追加したマーカーを追加すると、タイムラインルーラ上に表示されている

一般的なノンリニア編集ソフトとMAソフトの間のやり取りには、いろいろなリンクがあると思いますが、同一アプリケーションではありません。どうしてもAAFなどでMAソフト用に軽いファイルを書き出したりしてリンクすることになると思います。DaVinci Resolveには、編集やカラー、Fairlightがすべて1本のアプリケーションに搭載されていて、レンダリングやコンフォームも必要ありません。そこが、Fairlightの大きな強みだと思います。

――DaVinci ResolveのFairlightとAvid Pro Toolsは連携はできますか?

岡野氏:Pro Tools用の書き出しというオプションがデリバーにありまして、ここでPro Tools用に全部素材を軽くして送ることができます。AAFで書き出してタイムラインデータの共有が可能です。

新しく搭載されたコラボレーション機能も注目

――今までDaVinci Resolveを使われているカラリストやエディターの方がFairlightのページを使えば「こんなことに使える」みたいなアドバイスを頂けますか?

岡野氏:Fairlightはもともとハイエンドのプロフェッショナル向けにできており、MAに必要な機能は標準で搭載されています。一般的なMAソフトと同じように、イコライザー(EQ)、ダイナミクス、パンなどといったツールがあり、たとえばEQを使ってハイとローを抑制をしたりすることができます。VSTプラグイン、AUプラグインに対応しているのもポイントで、ディレイ、ディストーション、ハイパス、ローパスフィルターといったエフェクトをクリップ単位、トラック単位で適用することができます。

あと話は変わりますが、DaVinci Resolve 14 Studioでは1つのプロジェクトを複数のエディターやカラリストが同時に作業できるコラボレーションという機能が搭載されています。コラボレーション機能とは、エディターとカラリスト、Fairlightのオーディオの編集マンがいたときに、同時に同じプロジェクトを参照しながら作業ができるというものです。なので、音声を編集している間にカラリストが色をいじっていたりすることが可能です。

たとえば、MacBookとWindowsのノートPCがあればコラボレーションができます。特にサーバーも必要なく、Ethernetでつなぐだけです。もちろん大きなポスプロとかになれば、ストレージも別立てで用意してFibre Channelで繋ぎ、プロジェクトサーバーを立ち上げてプロジェクトを共有といったこともできます。

きちんとビンのロック機能が搭載されていますし、誰が何をやっているのかがわかるようになっています。また、コラボレーションチャットというチャット機能が搭載されており、いちいちSkypeなどを繋がなくても内部でやり取りができます。

2009年にBlackmagic DesignがDaVinci Resolveを買収した当時は、DaVinci Resolve自体が非常にハイエンドのソフトということもありユーザー数も限られていた。しかし、無料版の登場などによって今では定番ソフトとして幅広く使われている。FairlightもDaVinci Resolveの買収当時の様子と同じ状況で、DaVinci Resolveの中に組み込まれることでどんどん広まっていくのではないだろうか。どこまで伸びるか今後の展開が楽しみだ。

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Vol.03 [inside DaVinci 14] Vol.01