txt:猿田守一 構成:編集部

フルサイズセンサー搭載XDCAMメモリーカムコーダー「FX9」が登場!

InterBEE2019で初お目見えとなったSonyのFX9がいよいよ発売された。FS7 IIの上位機種といった位置付けで、ボディデザインはFS7 IIとよく似たルックとなっている。しかし見た目が似ているというだけで、フルサイズ大型センサーの搭載に始まり、クルクルピっ!のロータリー式のメニューボタンの廃止、ボタンやつまみ類の位置の見直しなど、実にさまざまな細かい部分がユーザーの意見を取り入れる形でブラッシュアップされており、軽く触っただけでその扱いやすさを実感できた。

(左)FS7 II、(右)FX9

本機の大きな特徴である6Kフルサイズセンサーは裏面照射型のCMOSセンサーとなっている。実際に写真でお分かりいただけるようにマウント部分ギリギリまでセンサーというサイズ感である。α7Sシリーズでも定評となっている方式だ。このセンサーよく見ると3:2の縦横比となっている。FX9は6Kフルサイズモードと4Kスーパー35モードを搭載している。6Kフルサイズモードでの撮影の際には、このセンサーから16:9または17:9を切り出すのでセンサー上下は使われていない事がお分かりいただけると思う。

4Kスーパー35モードの時はこのセンサーサイズをフルに使うという事では無く今まで通りのスーパー35サイズの切り出しとなっている。6Kフルサイズモードを使用すると、フルサイズ35mmの画角で収録する事ができる。ここで注意しなければならないのは、6Kフルサイズモードで6K映像を撮る事は出来ない。

FX9は6Kフルサイズの信号を4K(3840×2160)で収録する。将来のファームアップで4096×2160への対応を控える形となっている。より高品質な4K映像を収録するために6Kからオーバーサンプリングで高画質を得るという発想なのだろう。実際にこの紙面をご覧いただいている方なら、フルHD映像はフルHDセンサーのカメラより4Kカメラからのダウンコンバートの方が同じHDでも表現力が断然違うという事はお分かりいただけると思う。

また低ノイズの裏面照射型センサーのおかげでDual Bace ISOを実現することが出来た。本機はVENICEと同じくベース感度を2つ持ち、ISO800とISO4000に設定することが出来る。実際に撮影してみたところISO4000での設定でもノイズの乗り方は殆どISO800と変わらないという事が実感できた。15Stop+のワイドなラチチュードでの撮影が可能となっており、グレーディング作業を行う事でFX9の表現力を余すことなく発揮させることが出来る。15Stop+というとカタログスペックではVENICEと並ぶハイダイナミックレンジなのだ。

S-CinetoneはVENICEで好評を得たシネマの画作りをイメージさせるトーンを導入したルック。今までの709ベースのトーンではよく言われるSonyトーンなのだが、S-Cinetoneは肌色が若干の赤みを帯びたとても自然な感じに見えるようチューニングがなされている。

実際にフィールドに出てみて本機のAF性能を検証してみた。FX9では位相差検出方式とコントラスト検出方式を利用して高精度なAFを実現したファストハイブリッドAFを搭載している。今までのコントラスト方式では被写体の輪郭などのコントラストの高い部分を検出しフォーカスを合わせる方法だったので、被写体の遠近情報を得にくいという欠点があったが、位相差方式を組み合わせることにより被写体の遠近情報を得る事ができ、より早く、より正確なAFを実現できるようになった。

以前レポートしたHXR-NX80から搭載され始めたのだが、本機では相当ブラッシュアップされた。撮像素子のサイズが大きくなればなるほどF値の明るいレンズを使用する事で、被写界深度を浅く取る事が出来るようになる。本機のようにフルサイズセンサー搭載となるとこのAF性能がとても効いてくる。またPXW-Z280/Z190に搭載された顔認識AFも併せて搭載されている。

前置きが長くなったがサンプル動画を見ていただきたい。

※動画には音声がありません

被写体がおよそ25m先からカメラに向かって歩いてくるのだが、20m程で顔を認識し、フレームアウトするまでフォーカスを追従できた。

この時、レンズは開放値F2.8のFE 24-70mm F2.8 GMを使用し、S35モードの最望遠で撮影した。SDI2端子からはVF映像を出すことができるので、その映像をATOMOS SHOGUNで収録したものを参考動画としている。

この操作をマニュアルで行うと、よほど優秀なフォーカスマンとワイヤレスフォローフォーカスなどの装備一式がないと到底無理な話である。ここまで顔を追ってくれるとは思わなかった。また、顔の認識はどこまで行えるかのテストも行ってみた。この動画のように両目が見えない横顔の状態でも顔として認識できている事に注目していただきたい。

次に顔優先モードと顔限定モードだが、顔優先モードの場合、顔を認識したら顔にフォーカスを合わせる。顔を認識しなければ他の物にフォーカスを合わせる。また顔限定モードは顔を認識したら顔にフォーカスを合わせ、顔を認識できなくなると、フォーカスコントロールは停止し、見失った位置に留まり続ける。これらの方法をうまく使い分ける事で難しいシチュエーションをコントロールできるのではないかと思う。

また、参考動画の人の顔を認識する位置とフォーカススピードに注目していただきたい。画面に人の顔が入り始めてからは意外と早く顔を認識している。AFの検出範囲もかなり広い事が確認できた。Sonyの発表ではカバー率は縦横で96%×94%だそうだ。

ビューファインダーもFS7 IIの960×540の解像度から1280×720のLCDパネルに一新されている。拡大フォーカス機能と併用する事でシビアなフォーカス確認を行うことができる。またアイピースもワンタッチ跳ね上げ方式に変更されている。

時間の都合でハイフレームレートの検証は出来なかったが撮影できるバリエーションは以下の通り。

ソニーWebサイトより引用

収録フォーマットはXAVC Intra、XAVC Long、MPEG HD422をサポートXQDメモリーカードに記録する。

冒頭でも述べたが、FX9のインターフェースはFS7 IIから細かい部分が色々と変更されている。特に筆者が気に入ったのはクルクルピッのメニューボタンの廃止だ。以前の機種ではメニュー内のカーソルを上下させるためにダイヤルを回すのだが、回している最中にダイヤルを押し込んでしまい、意図しない部分で無駄な時間を費やしてしまう事が多かったが、FX9でいよいよメスが入った。側面パネルのメニューボタンは4方向と選択が全てボタンに変わった。電子式可変NDフィルターは健在だ。FS7ではNDの入り切り操作はダイヤル式だったが、この部分はボタン式に変更された。電子NDフィルターの操作ダイヤルは若干小ぶりな形状に変更となった。

また前面部には新たに回転式のツマミが搭載され、ツマミを回すことでメニュー項目を上下に移動できる。選択はこのツマミを押し込むというとてもシンプルで間違いのない仕様に落ち着いた。この方式はHDCAMやXDCAMのショルダータイプのENGカメラで採用されていた実績のある方式なのだ。

オーディオは4ch対応となっており、本体には2chのキャノン入力が装備されている。また拡張ユニット(XDCA-FX9)装着により、スロットイン ワイヤレスレシーバーからの音声を入力する事ができる。このカメラは意外と消費電力が高いようでBP-U60では1時間半程度がいいところのようだ。ちなみに付属のACアダプターは19.5V仕様となっている。オプション扱いの拡張ユニットはVマウントバッテリーに対応しており、12V4Pinキャノン端子が装備されている。BP-Uシリーズに不安を感じているなら是非購入をお薦めしたい。

FX9を使用していて、実はXQDカードを抜く事が非常に難しいことが分かった。筆者の様な大柄な体格だと指が太い影響でXQDカードをつまみ出そうと思ってもUTILITY SD/MSスロットの出っ張りが邪魔をしてXQDカードがつまみ出せない事態になってしまった。XQDカードが抵抗なくスルっと抜けてくれればいいのだが、若干の抵抗があるため抜く事に難儀したのだ。最終的には人差し指を奥側に突っ込む形で抜くことが出来たのだが、この抜くときの体勢は、撮影中に咄嗟に行う事はなかなか難しいので上手くコツをつかむ必要がある。

(左)収録時の収納された状態、(右)交換時の飛び出した状態

駆け足であったがFX9を触ってみて、とても良くできたカメラであると感じた。カメラマンがオペレートする上で重要なのは間違いにくいユーザーインターフェース。これはスイッチ類の配置やメニュー構成で決まる。XQDカードと消費電力以外は申し分のない使いやすさだと感じた。

SonyのフラグシップカメラVENICEの血統を継承するFX9は、ワンマンオペレートが可能なフォルム、6Kフルサイズセンサー、高感度低ノイズの実現と広いラチチュード、高性能なAFなど、実に魅力的なカメラだ。これもSony技術陣の努力の賜物ではないだろうか。関係者に拍手を送りたい。FS7やFS5を使用しているユーザーならそろそろ買い換えても良いのではないだろうか。

WRITER PROFILE

猿田守一

猿田守一

企業、CM、スポーツ配信など広範囲な撮影を行っている。PRONEWSではInterBEE、NAB、IBCなどの展示会レポートを行った経験を持つ。