映像クリエイターが知るべき録音術

txt:渡辺健一 イラスト:渡辺あやね 構成:編集部

雑踏の中でクリアな音声を撮る必要がある場合、どうしたら良いだろうか。マイクワークの基本は、とにかく近付く、マイクの画角に合わせたマイクの向き、そして、近付いた分だけマイクボリュームを下げることだ。さて今回は、インタビューマイクなどを使った雑踏の中での録音技術を紹介する。

インタビューマイクとは何か

テレビでレポーターがマイクを持って喋っているシーンはよく見かける。まず、マイクの基本として、手で本体を持って使えるマイクを「ハンドマイク」と呼ぶ。これは特殊なマイクで、手で持ってもマイクを触ったときの音が入らないような内部構造になっているのだ。一方、ガンマイクなどは、手で直接触ると非常に不快で大きな音が出る。これをハンドリングノイズと呼ぶが、それを避けるためにショックマウントという物を使う。

RODEのショットマウント「SM4R」

インタビューマイクの持ち方

インタビューマイクは、手で持って使ってもハンドリングノイズがほとんど出ない。しかし、それでもマイクの集音部に近い部分では音が入る。そこで、インタビューマイクを使う場合は持ち方が重要になる。マイクのコネクター部分に近い辺りを握るのだ。ただし、コネクターを握ってしまうと、コネクターの損傷やコネクターが動いた時の電気ノイズが出ることがあるので、コネクターに触ってはいけない。

インタビューマイクの位置

SHURE「SM63」

インタビューマイクの画角は機種によって違う。放送局で定番のSHURE SM63は無指向性なので、マイクの向きはあまり気にする必要はない。ゼンハイザーのMD42も無指向性だ。RODEのReporterは、指向性があるのでマイク先端が口元へ向いていることが求められるが、それでもそれほど気にする必要はない。

マイクの距離だが、5cm~30cm程度がピント範囲だ。普通の場所なら、顎の下5cmくらいに持っていると丁度いい。ただし、顎の下にマイクが隠れてしまうと明瞭さが下がるので注意が必要だ。喋り手が素人の場合には、マイク位置が安定しなかったり、変な向きのまま喋っていたり、マイクが離れてしまうことも多いので、事前に練習することをオススメする。

ひどい雑踏の中での収録

パチンコ店やイベント会場のような非常にうるさい場所での収録では、マイクの距離が非常に重要になる。雑踏を下げるにはマイクをできる限り近付けて、その分だけマイクボリュームを下げるという毎期ワークの基本を行う。

実際にイベント会場などでは、口元から数cmまで近寄ることで雑踏との分離ができることも多い。この場合マイクの近接効果で低音が強くなったり、マイクに息がかかる時のポップノイズが出る。まず、近接効果に関しては、ミキサーで低音カットをするか、編集時にイコライザーで音質を調節する。もしくは、マイクを選ぶと言う手段もある。SHURE SM63は強めに低音カットされているので、近接効果はそれほど気にする必要はない。

一方のポップノイズだが、これはマイクに風防(スポンジ状のキャップ)を付けることで、ほとんど解消することができる。それでもポップが入る場合には、息がかからない位置へずらすことで対応する。

誰かにインタビューするマイクワーク

さて、レポーターが一人で喋る場合には上記で対応できるが、レポーターが誰かにインタビューする場合には適切なマイクワーク(操作)が必要になる。これが非常に難しく、慣れていないレポーターだと喋ることに夢中で、マイクを自分と相手に振り分ける動作ができない。マイクワークが適切でないと声が不明瞭になったり、雑踏が大きくなる。

基本的には喋る人の口元へマイクを向けることになるのだが、レポーターのマイクワークはもちろんのこと、相手が喋るきっかけをレポーターがコントロール出来ないと、マイクワークが遅れがちになり音が安定しない。

ちなみにテレビ番組では、レポーターにマイクワークをやらせずに、音声マンがマイクブームで相手の声を収録する。レポーターにピンマイク(ラべリアマイク)を付けている場合も同じだ。

立ち位置の工夫で音を安定させる

レポーターが不慣れな場合には、立ち位置とマイク位置の調整で、マイクワークをやらない収録方法を用いる。レポーターとインタビューを受ける相手を肩が付くくらいに近寄らせて横並びにする。マイクは2人の中間に置いて動かさない。こうすることで、2人の声量も音の距離感も同じになるので、簡単に収録することが出来る。

出演者がマイクを持てない場合にはピンマイクかヘッドセット

ソニー「UWP-D21」

パチンコ番組のように出演者が両手を使って何かをする場合には、ピンマイクかヘッドセットを使うことになる。普通の場所であればピンマイクがベターだ。プロ用の無線ピンマイクは5万円以上と予算的には大変だ。最近はデジタル式の安価な無線マイクが色々なメーカーから出ている。ほぼ、価格と音質は比例していると思って良い。

安価なものでは、ソニーのECM-AW4が2万円前後。内蔵マイクと別売りのピンマイクが使える。ピンマイクがベターだが、本体を胸ポケットに刺して使えば、カメラマイクに比べると圧倒的に音質は向上する。

ソニー「ECM-AW4」

別売りピンマイクは、プラグインパワーのものであればほとんど使えるが、プラグインパワー式マイクは相性があるので動作確認が取れているものを購入するべきだ。ちなみに、RODEのピンマイクは使えた。ピンマイクだけで1万円もするが、音質はいい。

余談だが、このソニーのECM-AW4はトランシーバーにもなる。出演者にイヤホンをしてもらうことで、カメラマンからの指示を伝えられるので、この機能はかなり便利だ。

RODE「Wireless GO」

RODEのWireless GOも、ソニーのECM-AW4と同じく、デジタル式でマイク内蔵の超小型無線マイクだ。本体は3万円弱、別売りピンマイクが1万円。ピンマイクまで買うと業務用の無線マイクに手が届きそうだ。先のソニーのECM-AW4も、RODEのWireless GOも、業務用無線マイクにないメリットもある。まず、サイズが非常に小さいので荷物にならない。空き周波数を探す必要もないので、セッティングが非常に迅速だ。

また、汎用のマイク入力なので、ピンマイクだけでなくゼンハイザーのMKE 600や、RODEのNTG2/NTG4のような電池内蔵のショットガンマイクをつなげることができる。置きマイクをする場合に非常に便利だ。もちろん業務用無線マイクも適切な変換ケーブルを用意すれば、上記のMKE 600なども繋ぐことが出来る。ただし、プラグインパワーは使えない。

■ヘッドセットは非常に難しいマイクだが、騒音に強い

SHURE「PGA31

ヘッドセットマイクは、どんなに酷い騒音の中でも声を明瞭に録音することが出来る。マイクが口元にあるからだ。ただし、マイク位置をほんの数ミリ動かすだけで音質が大きく変わってしまう。また、マイクに息がかかりやすいので、ポップノイズも出やすい。

正しいマイク位置は、口角から1cm離して設置する。ヘッドセットは、マイク位置がずれないように強い張力で頭を締め付けるので、演者はかなり痛がる。丁度良い張力になるようにヘッドバンドを調整することも重要になる。

ネットなどに音質のレビューが数多く公開されているが、多くの場合、最適なマイク位置になっておらず、あまり参考にならないと思う。正しい位置に調整されていると、インタビューマイクと同等以上の音質が確保できる。

まとめ

出演者の声を収録するには様々な方法がある。インタビューマイクはもっとも簡単で音質も安定しやすい一方で、出演者のマイクワークが重要になる。ただし、マイクワークができれば非常に多くの場面で活躍してくれる。

ピンマイクはセッティングに時間を要するが、非常に安定した声を録れる。だが、出演者の数だけマイクが必要となり、機材投資が負担になる。デジタル式の無線マイクは安価だが、本体内蔵マイクだと雑踏に弱い。別売りピンマイクを使うことがベターだ。拡張性という意味では業務用無線マイクを凌駕するし、非常に小さいので工夫次第で表現の幅がひろがるだろう。

ヘッドセットマイクは、ある意味特殊なマイクで、普通の場所ではまず必要ない。イベント会場やパチンコ店のような非常にうるさい場所では絶大な威力を発揮するが、セッティングが難しい。

WRITER PROFILE

渡辺健一

渡辺健一

録音技師・テクニカルライター。元週刊誌記者から、現在は映画の録音やMAを生業。撮影や録音技術をわかりやすく解説。近著は「録音ハンドブック(玄光社)」。ペンネームに桜風涼も。