VARICAMの新しい章がはじまった

パナソニックは、VARICAM 35/HSに続く新たなシネマカメラ・ラインナップとして、従来より小型の筐体を持つ4K60p対応のシネマカメラ「VARICAM LT(AU-V35LT1G)」を発表した。

アメリカ現地時間の2月10日19時から、米ウェスト・ハリウッドにある、全米映画監督協会の施設DGA(Directors Guild of America)の中にある3つのシアターとホワイエを使って、内外の映画関係者などのゲストをおよそ500名強を招いて盛大に行われた。今回はこのVARICAM LTを起点に2016年のデジタルシネマを考えてみたい。

「This is my New Baby!」とVARICAM LTを発表する、パナソニック社 宮城邦彦 BU長

メインシアターであるシアター1で、まずはこれまでのニューVARICAM(35、HS)の軌跡と概要が説明されたあと、パナソニック(株)の宮城邦彦プロフェッショナルAVビジネスユニット長によりVARICAM LTが正式に発表された。引き続きLTの主なスペックのガイダンスの後、実際にVARICAM LTでデモフッテージを撮影した撮影監督、Dejan Georgevich,ASC氏より、実際の撮影状況等が解説され、そのフッテージが上映された。

VARICAM LTで撮影されたデモフッテージの解説を行う、撮影監督Dejan Georgevich,ASC氏

その後、ホワイエでは計6台のVARICAM LTの実機が並べられ、ビュッフェ形式で飲食を楽しみながら、開発スタッフ等と懇親しつつ、たっぷりとカメラのハンズオンもできるという充実したイベント内容。本イベントは10日ほど前から一般にも告知されており、関係者だけでなく映画撮影でVARICAMに興味を持つ人も事前登録すれば誰でも参加出来るイベントだ。2日前までですでに約1,000人の予約登録があったという。VARICAM LT発表のメイン会場となったシアター1のキャパシティが600名で、そのほとんどの席が埋っていたのでそれ相当の人数が集まったようだ。

ホワイエのパーティー会場でも様々な撮影スタイルの展示デモが行われていた

ネット情報では一部先にリークされてしまった情報もあったが、正式なプレスリリースも日本でも同日同時刻のタイミング(2月11日午後1時)で行われ、国内発表では本体価格(カメラ、コントロールパネル、ハンドルグリップ)は、250万円(希望小売価格・米ドルでは$18,000)で、NABshow前の来月3月下旬には出荷開始というから、同社としては従来に比べて非常に早いペースの製品展開だ。

VARICAM LTで特徴的なのはパナソ二ックとしては初となる、キヤノンEFレンズマウント搭載の業務用カメラになる。これについては、同社の開発スタッフに聞いたところ、一様に現場のリサーチ結果によるものだということだが、これまでPL以外ではマイクロフォーサーズマウントを推して来た同社としては、このVARICAM LTによって新しいユーザー、そして新しい市場を開拓する急先鋒になるのではないだろうか?

価格帯的にもターゲット市場は、ソニーPMW-F55、キヤノンEOS C300 Mark IIと競合する層になると思われ、そうした意味でもこのVARICAM LT登場の意義は大きいのかもしれない。さらにオプションのPLレンズマウントモジュール(AU-VMPL1G:税抜195,000円)を購入すれば、メーカーの工場やサービスセンターに預けることなく、ユーザー自身がPLマウントへ変換も可能というフレキシブルな対応は、レンズの特徴への指向が向上し続ける今後のシネマカメラ界に大きな波紋となりそうだ。気になるフランジバックずれも強固なステンレス製で温度変化等に対応しているという。

VARICAM 35でハリウッドからも高い評価を得たネイティブ4K MOSセンサーをVARICAM LTにも搭載

主な機能やスペックはすでにパナソニックの関連サイトで発表されている通りだが、大きなトピックとしては、ISO800とISO5000の2つのダブルスタンダードのベース感度を持つ、デュアルネイティブISO搭載のVARICAM 35に採用されたのと同じスーパー35mm MOSセンサーを搭載しており、ダイナミックレンジも14ストップと広い。ちなみにこのMOSセンサーは、2015年度の米国HPA(Hollywood Post Alliance)優秀技術賞(Engineering Excellence Award Winner)を受賞している。

カメラコントロールのパネルはこちらもデザインはLT専用のものだが、機能はほぼVARICAM 35のものを踏襲し、取り付けられる箇所も自由になっている。ケーブル部分のみ、35のコネクター脱着式から直づけのケーブルとなっている。expressP2カードによるカメラ内4K収録とイン・カメラ・カラーグレーディング機能などのポストワークフローを考えた仕様も、VARICAM 35を踏襲している。

機動性重視の設計になっているVARICAM LT

ドキュメタリーなど機動性を要する現場への対応箇所も数多く取り入れられており、本体以外に多彩なオプションが用意されている。ビューファインダーはVARICAM 35に装着されていたものと同機能のものをオプションとして用意。また小型軽量化(本体のみで約2.7kg)されたことで、ショルダータイプのカメラとしても使用しやすくなっており、それをサポートする専用ハンドグリップやショルダーマウントなども用意されている。

VARICAM 35との決定的な違いはどこか?

DGAシアターの発表会場には多くの映画関係者が訪れた

外部への4K出力が無い(3G-SDIなど)ことと、expressP2カードスロットが、VARICAM 35より1つ少なく、メインとプロキシ(SDカードスロット)の2つになっている。また4Kは60pまでで、4K120pには対応していない。しかしその他の部分ではほぼVARICAM 35とほぼ同一のスペックを満たしており、しかも小型軽量で価格も約半分ということで、会場に集まった著名なハリウッドのDPたちやカメラマン、映画撮影関係者などのユーザーからも大きな期待が寄せられていた。

DGAの3つのシアターでそれぞれにVARICAMの今を伝える上映展示が行われた

その他会場ではEFマウント、PLマウントそれぞれのレンズ装着による多様なスタイルの展示や、VARICAM 35+CODEX RAWユニットによるRAW収録のオンセットデモ、さらにシアター2では同社4Kプロジェクターによる4K試写上映、シアター3ではHDRフッテージのデモとして、VARICAM 35、VARICAM LTで撮影されたコンテンツをColorfront社の協力のもと、HDR処理した映像などの解説が行われていた。

txt:石川幸宏 / 編集部 構成:編集部


[Digital Cinema Bülow IV] Vol.02