放送業界のクラウド、IP化が叫ばれて久しいが、いよいよここに来てそれが本格化したように思われる。今回はそのトレンドを受けクラウドやIPに関して最前線であるAWSクラウドを中心に巡るコースを用意した。

Inter BEE 2019会期中に併催の、民放連会員各社の放送技術に関する最近の研究や開発が一堂に報告される「民放技術報告会」(会場:国際会議場3階 主催・企画:一般社団法人日本民間放送連盟(JBA))において、クラウド変革の可能性やクラウドを取り入れて開発した最新技術の発表が各局から並ぶようになった。

放送業界に向け、クラウドメディアのアピールが早かったアマゾン ウェブ サービス ジャパン(AWS)の出展の存在は、メディア業界における「放送と通信の共存」の形勢の中、注目が寄せられている。

01 アマゾン ウェブ サービス ジャパン[#6401]

AWSのInter BEE出展は、今年で6回目。最初は1小間スペースにプレゼンテーション資料を表示するモニターが設置されただけだった。今年の30小間スペースでは、AWS自身の展示コーナーに加え、技術パートナーとソリューションパートナー社17社が集結し、各社による最新技術の体験の場を提供する(ブース番号:6401)。そして、AWSブースの外では20以上の出展社から、AWSのクラウドを使った独自のサービスや従来の放送運用とインフラをクラウドへつなぐソリューションを紹介している。

AWSブースでのパートナー出展は17社。AWSは、メディアの制作から発信するまでのワークロードを、「コンテンツ制作&ポストプロダクション」「コンテンツ&ワークフロー管理」「コンテンツ配信&送出」「機械学習&データ分析」と、4つのカテゴリーに定義し、各分野においてクラウドを利用したメディアソリューションを提供している

■制作

  • パナソニック株式会社
  • イノテック株式会社
  • 株式会社JVCケンウッド
  • クラウディアン株式会社
  • 株式会社ナレッジコミュニケーション

■配信

  • 株式会社PLAY
  • 株式会社アット東京
  • 株式会社イノコス
  • KKSTREAM Limited
  • 株式会社ソシオネクスト w/アイベックステクノロジー株式会社
  • 富士通株式会社

■管理

  • 株式会社IMAGICA Lab.
  • 株式会社アップストリーム w/東海テレビ放送・中京テレビ放送・CBCテレビ・テレビ愛知
  • Dalet Digital Media Systems
  • 株式会社トラフィック・シム
  • 株式会社フォトロンファイルフォース株式会社

AWS展示コーナーでは、クラウド上で動画ワークフローを構築可能な「AWS Media Services」を活用した放送と配信の取り組みを、4つのワークロードに沿って紹介している。クラウド上でのコンテンツ制作や編集、管理、超低遅延ライブ配信、新フォーマットAV1対応の次世代エンコーディングや低ビットレートと高クオリティのバランスを調整するQVBR形式のエンコーディングといった最先端技術、AWSのML(機械学習)サービスを活用した、メタデータ抽出、自動クリッピング、キャプション、リアルタイム翻訳など。

超低遅延ライブ配信においては、10月に行われた「FIVB ワールドカップバレーボール 2019」で、フジテレビジョンが取り組んだ、試合を別視点で見る「セカンドスクリーン」、SNSを操作しながら見る「ながら視聴」を実現するための超低遅延配信システムでAWSのメディアサービスが採用され、一か月以上のイベント開催期間中、約3秒遅延で数万人規模の同時視聴を安定した配信を成功させた。

先述した、20社以上におよぶAWSクラウドを利用したサービスや技術を展開している展示ブースについては、次にピックアップして紹介する。

02 パナソニック システムソリューションズ ジャパン[♯2514/AWSブース]

パナソニックの映像制作機材が創る「クラウドワークフロー」は、AWSブースのコンテンツ制作コーナーで紹介。

  1. 情報カメラ映像の収録・管理システム:現場映像をAWSクラウド上でデータ化、必要部分のみ迅速に届けられる
  2. 取材業務の効率化(P-VoT連携):カメラ自動転送で素材をクラウド管理、同社の音声処理・音声認識技術を活用した文字起こしサービス「P-VoT(ピーボット)」との連携
  3. 専用システムを構築することなく、AV機器・システムの稼働状況をリモート監視するクラウドサービス「CARES」でエッジデバイスを監視

03 トラフィック・シム[♯5206/INTER BEE SPORTエリア内#7512/AWSブース]

トラフィック・シム社は、自身の展示ブースに加え、「InterBEE SPORTS」内とAWSブースで展示を行っている。中でも、「Cloud RecShare (RCD-50HR)」は、スポーツ放送でハイライト用クリッピングに有効活用できる新製品で、事前登録されたスケジュールや手動作業で素材をクラウド上にクリップできるシステムだ。スケジュールを登録する事で、試合毎のデータをクラウドにアップロードすることを可能とする。

04 富士通[♯6112/AWSブース]

「IP-HE950」は、1Uハーフラックサイズの高効率映像符号化方式H.265/HEVCを実装したリアルタイム映像伝送装置で、4K映像のリアルタイム伝送を可能にする。クラウドを利用することで、リーズナブルで高精細な映像伝送およびライブ中継するシステムが構築できる。IP-HE950で圧縮した高品位映像を低遅延で伝送でき、複数リージョンを経由した国際伝送や複数拠点へのマルチポイント伝送も設定1つで可能になる。AWSブース内にある同社展示コーナーに、4KカメラとIP-HE950Eを設置し、ライブ動画伝送サービス「AWS Elemental MediaConnect」を経由して、富士通側ブースに設置したIP-HE950Dでライブ受信している。

05 JVCケンウッド[♯6209/INTER BEE SPORTエリア内#7521/AWSブース]

CONNECTED CAMの最新ソリューションとして、AWSクラウドサービスを活用する制作環境をAWSブースのコンテンツ制作コーナーで紹介。CONNECTED CAMに搭載している撮影クリップが生成される毎に自動でアップロードされる「オートFTP機能」を使い、AWSクラウドへダイレクトにアップロードができる。クラウドに転送した撮影クリップは、対応するノンリニア編集システムで遠隔編集が可能となり、即時性の高い素材を短時間で制作する環境が実現する。

06 フジミック[♯7305]

フジテレビジョンが2月から始動している、VTRで管理していた番組素材をAWSベースのクラウドサービス上のデータファイルとして管理する総合コンテンツ管理システム(MAM)を導入するにあたり、フジミック社がそのシステム構築に携わっている。同社ブースでは、フジテレビジョンのコンテンツ管理システムを導入事例として取り上げたプレゼンテーションを随時行っている。本構築は、民放技術報告会でも「クラウドを活用した総合コンテンツ管理システムの構築」と題して、フジテレビが発表した(11月13日)。

06 カリーナシステム[♯7510]

スポーツのダイジェストクリップ編集、ニュースコンテンツの切り出しなど、キー局、準キー局のインターネット用コンテンツ制作で、安定した運用実績を持つコストパフォーマンスに優れた時差編集システムパッケージ「MEDIASYNERGY CLIPPER」。AWS上で構築できるクラウド版があり、ストレージサービスAmazon S3と直接の連携、そしてライブ動画処理サービス「AWS Elemental MediaLive」と接続してライブ配信が可能。

07 FOR-A [#4206]

クラウド音声認識サービスを使い、字幕制作および文字起こし作業を支援するサービス「NeON-CA(NeONクラウド・アシスト)」を実演で紹介。映像ファイルの音声を、GoogleやSpeechmatics、Microsoft Azureといった音声認識サービスを使って音声認識し、朋栄IBEが開発した地上デジタル・アナログ用字幕放送画面制作システムNeONをベースに字幕ページと文字起こし情報を自動生成する。

字幕データはプロキシ映像にオーバーレイしてプレビュー確認でき、編集やARIBファイル出力が可能。オンラインストレージ Amazon Simple Storage Service(Amazon S3)と、ダイレクトな連携がとれる。対応映像ファイルはMPEG1/2、H.264 /MP4、MXF(XDCAM互換)。本サービスの利用開始は2019年12月を予定している。 


Fコース [InterBEE 2019の歩き方] Intro