5月には母校デジタル・ハリウツドで講演会も開催された。講演中の多田氏
取材:鍋 潤太郎 構成:編集部

はじめに

3月に劇場公開され大ヒットした映画「キャプテン・マーベル」。2019年7月3日のMovieNEX発売を記念し、この作品でライティング・アーティストを務めた多田 学氏にお話を伺ってみた。

多田 学(ただ がく)
ライティング・テクニカルディレクター / フリーランス
1974年生まれ、広島市尾道出身。千葉大学工業意匠学科に在学中、デジタル・ハリウッドのクラスを1年間受講。1997年に大学を卒業後、デジタル・ハリウッドLA校であるDHIMAのオープンに合わせてLAへ。その後、Digital Domainを経て、2004年10月にニュージーランドのWeta Digitalに移籍。2018年にカナダのバンクーバーへ拠点を移し、フリーランサーとしてご活躍中。

――大変ご無沙汰しています。前にお会いしたのは、ユニバーサルスタジオ・ハリウッドのアトラクション「King Kong: 360 3-D」の本欄の記事で取材をさせて頂いた時でした。あの時はニュージーランドのWETAに在籍されておられましたが、現在はカナダのバンクーバーに拠点を移されたそうですね。

VFXの仕事が、アメリカの映画スタジオからいろんな国に流れていて、最近は特にカナダが多いので、そういうのも視野に入れて動こうかなと思って、バンクーバーに来ました。

現在は映画のプロジェクト以外にも、映画「マイティ・ソー バトルロイヤル」の監督をやっていたタイカ・ワイティティと友達なんですけど、ニュージーランドでやっているTVショーのプロジェクトを手伝ったりしています。

――「キャプテン・マーベル」に参加された時のお話をお聞かせください。

映画「キャプテン・マーベル」では、ILMバンクーバーで、ライティング・テクニカルディレクターとして参加しました。ILMはサンフランシスコ、ロンドン、バンクーバー、シンガポールに拠点があるのですが、この作品ではサンフランシスコとバンクーバーが一緒に作業をやっていました。ロンドンは関わっていないと思います。

僕がやっていたシークエンスに限った話ですが、炎のセットアップはバンクーバーでやりました。アセットはサンフランシスコでやったりバンクーバーでやったり。その関係で、サンフランシスコとバンクーバーは、ビデオ会議を同時にやったりもしていました。

ILMバンクーバーでは全部で200人位のチームが「キャプテン・マーベル」に参加していました。色んな部署があるのでこれだけの大人数になりますが、僕が担当したライティングのチームは10人ぐらいの規模でした。

© 2019 Disney
ILMバンクーバーのロビー(筆者撮影)
――ライティングの場合、どのようなツールで作業を行うのでしょうか。Mayaがメインですか?

この作品では、KatanaとRenderManでした。Mayaは使っていません。

――RenderManを使ってみて、他のレンダラーより優れている点はどんな部分だと思いますか?

WETAの時は、自社開発レンダラーのマヌカ(Manuka)を使用していましたが、マヌカに比べればレンダリング時間が断然早いので良かったと思います。特にディノイズは、レンダー時間がかなり短縮でき、効率的で良かったです。

――「キャプテン・マーベル」では、何ショット位を担当されたのでしょうか。

先日ようやく完成した作品を観たのですが、いろいろと小さいショットを含めると、全部で20ショットほどありました。

――ご担当ショットの中で、苦労した部分、こだわった箇所は。

そうですね。「苦労した」という訳ではないのですが、キャプテン・マーベルの身体から発する光があまりにも明るいので、「これでいいのかな?」という不安はありました。フォーカスが定まらないというか…そこが今までに担当した作品とは違いました。

こだわったのは、いろんなエフェクト会社とシェアしているものがあったので、それを最終的にうまく合わせるのが難しかったですね。こだわったというか、難しかった点ですけど。

――制作中に印象に残ったエピソード等があれば、お聞かせください。

キャプテン・マーベルが座っていて、スプリーム・インテリジェンスが地面から伸びてくるシーンを担当したのですが、なかなかデザインがクライアント側で決まらなくて、それが大変でした。元々コミックでああいうシーンがあって、それをリアルに表現をするアイデアが定まらなかったと思うんですが。

あとは先ほどもお話しましたが、キャプテン・マーベルの光が「明るすぎる」っていうのが印象的でした。みんな「ディスコ」って呼んでました(笑)。

――そういえば、ディズニー映画の冒頭に必ず登場する、シンデレラ城と花火とディズニーロゴが出て来る、あのオープニング・タイトルも、実は多田さんが担当されたとお聞きしましたが。

はい、あれはWETAの時に担当しました。どうしてWETAがディズニーのオープニング・タイトルを受注したのか、よく知らないんですが(笑)。

ダンボ
先行デジタル配信中
7月17日(水) MovieNEX(4,200円+税)、4K UHD MovieNEX(8,000円+税)発売
© 2019 Disney

みなさんも良く映画館でご覧になられると思いますが、作ってる当時は、まさかこんなに頻繁に使われるようになるとは知らないで作ってました。すごい面白いプロジェクトだったんです。

この時はILM出身のコンセプト・アーティスト&アートディレクターのマイケル・パングラッチオが、コンセプト・アートを起こしまして、僕がそれを3Dに起こした訳ですけども、この時に使用した手法は、固定のカメラをいくつか配置して、テクスチャーをプロジェクション・マップして、その上に3Dの木とか建物とかを置いて、ライティングしたっていう仕事でした。

この当時は5~6人のチームで担当したのですが、結構楽しく進められたプロジェクトでした。

――最後に、「キャプテン・マーベル」をMovieNEXデジタル配信でこれからご覧になる読者の方に、「ここは是非チェックして欲しい」という見どころ等はありますか?

やはり、僕が担当したキャプテン・マーベルの光のパワーのシーンでしょうか。強い光を「いかにスタイリッシュに見せるか」というクライアントとのデザイン的な要素のせめぎ合いに苦労しました。明る過ぎて、作っているときは不安でしたが、映画を観て納得した感じがしました。

これからMovieNEXデジタル配信でご覧になる方は、是非、そういう部分を意識して見て頂けると嬉しいです。

――今日はどうもありがとうございました。

キャプテン・マーベル
MovieNEX(4,200円+税)発売中、デジタル配信中
© 2019 MARVEL

WRITER PROFILE

鍋潤太郎

鍋潤太郎

ロサンゼルス在住の映像ジャーナリスト。著書に「ハリウッドVFX業界就職の手引き」、「海外で働く日本人クリエイター」等がある。