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東京現像所の考えるフィルム事業とは?

Vol.07に引き続き、東京現像所の取材を紹介しよう。今回は、技術者に現像所の動向やフィルム事業のサービスについて話を聞いてみた。映画用フィルムの現像ができるサービスは世界的に減っており、国内では東京現像所とIMAGICA Lab.の2社のみとなっている。その中で、東京現像所は今後、どのようにフィルム事業を展開していくのか?話を聞いてみた。

左から、映像本部 映像部 アーカイブ1課長 長豊氏、映像本部長 兼映像部長 西野克治氏、チーフテクノロジーオフィサー 木下良仁氏、映像本部 映像部 アーカイブ2課長 川俣聡氏

西ドイツのARRIから機材を輸入してカラーフィルム現像サービスを開始

――東京現像所の成り立ちを教えてください。

木下氏:設立は1955年です。1950年台に入ると映画作品の本数が相当量増えるようになりました。しかし、国内に映画の現像所はIMAGICA Lab.(当時の東洋現像所)しかありませんでした。そこで、東宝、大映、大沢商会など映画関係各社の出資で誕生したのが東京現像所になります。

設立当時、日本製の現像機やプリントを焼く機械はほとんどありませんでした。さらにちょうど終戦直後で、ドルや外貨の用意ができませんでした。そこで、創設メンバーである政治家の藤山愛一郎氏にお願いをして外貨を集めてもらい、当時西ドイツのARRIから機材を輸入してアグファ・カラーフィルムの現像サービスを開始しました。

映像本部 チーフテクノロジーオフィサー 理事 木下良仁氏

1955年の創立当時は、ARRIから機材を輸入。当時の筐体が現在でも一部残っている

――東京現像所とARRIとの関係はそこから始まったのですね。

木下氏:日本には機材がなかった。そこでARRIから全部輸入するしかなかったわけです。また、多摩川水系の存在も、この土地が選ばれた理由です。現像所は大変な水量を使用します。そこで、現在の駐車場の地下に、約100メーターの井戸を掘って、中庭に設置している水槽に水を汲み上げて良質な地下水を現像に使用しています。

コダック認定の高い品質基準を満たした現像品質を継続

――東京現像所のフィルムサービスについて、強みを教えてください。

西野氏:弊社は、60年以上の歴史がありまして、フィルム技術を今でも継承しています。フィルムを扱える若手も人も育っています。

また、フィルムに関する機材がすべて調布に揃っているのも強みです。敷地内だけで、フィルムの素材からどんな放送用にでもすべてフィルムに関わるサービスをワンストップで実現できます。

質の高い水も特徴です。これまでの現像は、すべて地下水でやっていました。そういう調布の土地柄もあります。

長氏:弊社はコダックの認定ラボとして認められます「コダックイメージケアプログラム」の認証評価に2003年8月から11年間続けて合格していました(その後も同様のプログラムを継続中)。世界基準でフィルムの状態を保っています。

西野氏:コダックイメージケアプログラムを通っていれば、どこの現像所に出しても同じ品質水準でフィルムが上ります。イメージケアプログラムは認定には4半期ごとの監査で合格しなければなりません。点数が足りず、改善が見込めないと一時的に認定は取り消されます。

コダックのイメージケアプログラムは2014年末に終了しましたが、品質管理に重要なモジュールを日本コダックから購入し、現在も客観評価を継続しています。ネガ現像に関していえば、昔から変わらぬ現像品質を維持しています。

映像本部長 兼映像部長 取締役 西野克治氏

映像本部 映像部 アーカイブ1課長 長豊氏

米国ではデジタル撮影にデジタル現像料が発生している

――コダックさんは「フィルムの需要は戻ってきている」というお話をされることがあります。国内で御社がフィルム現像サービスをやられていて、需要は戻ってきている感覚はありますか?

長氏:フィルムの需要が増えているという実感はありません。日本では山田洋次監督や木村大作監督などしかフィルムで撮っていない状態です。一部のCMで、フィルムを使って撮影されているものがありますが、多くはありません。

35mmと16mmの比率では、35mmがほとんどです。ネガに関しては7:3です。16mmは、弊社ではマスター作業に使われており、一部アニメ会社でマスターの保存を16mm IMPで行っています。これは特殊な例で、世界でうちだけしかやっていない作業と言われています。それを除くと、9:1ぐらいの差で16mmネガはほとんど動いていません。

ポジに関しても9:1で、35mmがほとんどです。16mmも以前はCS放送用に一回、ポジにフィルムを起こしてテレシネが行われていました。今はそのままスキャンに変わってきていまして、ポジ現像機の稼働も減っている状況です。

フィルムにはフィルムの良さがあり、回帰をしてほしいと願っています。

――フィルム需要の減少は、何が問題と考えますか?

木下氏:1つが、米国ではデジタルで撮ったものをデジタル現像する際は一般的に料金がかります。しかし、デジタル現像は日本では料金化されていないのが一般的です。

例えば、フィルムで何千フィート回した場合は、フィルム代がかかるし、現像料もかかります。しかし、デジタルで撮ったものはデジタルで現像をすると、現像料はほとんどないのが現状です。さらに、ラボのスタッフが撮影現場に出張し、現場で「OK」分のコピーを複製して持ち帰る。そういう作業もほとんどサービスです。

これが、米国だとすべて料金化されています。スタッフを一人現場に同行させれば1日数万円かかり、撮影データは○GB/○円のような容量に応じたデジタル現像料が発生します。デジタルは安いと言われます。しかし、本来の料金がかかったらデジタルとフィルムってそんなに差がないかもしれません。

また、フィルムでの撮影は役者に大変なプレッシャーがかかります。ですので、スタッフも役者も一発OKを狙います。役者は集中することで、いい映画が撮れます。

デジタルは何回NGを出しても、何回も撮り直します。最終的には、どれがOKかNGかもわからなくなる。このような問題もあると思います。

――フィルムの機材は機構がシンプルなゆえ、ほとんど進化はありません。それでも御社で新しく導入された機材などありますか?

木下氏:最近導入した機材は、アーカイブ向けになります。その中の1つが、フィルムクリーニングマシンです。これまでのクリーニングマシンは縦型でしたが、フィルムは重いために、引っ張って切れてしまう危険性がありました。新しいクリーニングマシンは、横に流してフィルムに優しい仕様を実現しています。

西野氏:機材ではありませんが、撮影のワークフローは変わってきています。最近は、フィルムをたくさん回すとコストが問題となります。そこで、デジタルで撮影をして必要なところをフィルムレコーディングする。つまり、ネガに焼き付けて現像して、スキャンする。一回フィルムをかますことで、フィルム粒子のルックを付けることができます。

木下氏:特にCM撮影でフィルムルックが求められています。デジタルで撮るとピカピカで好みではない。しかも、フィルムルックをデジタルでやろうと思うと意外と大変。そこで、一回フィルムに起こしてもう一回デジタル化しようという動きがあるわけです。

西野氏:この場合、フィルムでレコーディングする部分は、必要な部分だけです。しかし、デジタル撮影のときは何十分、または、何時間も撮っています。

――すでにフィルムで撮影されている方や現場で活躍されている方へ、御社からアドバイスはございますか?

西野氏:アドバイスではないのですが、積極的にフィルムでの撮影に取り組んでいただけたらと思います。学生さんでもフィルムで撮りたいと思っている方は多いと聞きます。できれば、将来でも構いません。どこかのタイミングで希望を叶えてフィルムで撮っていただければと思います。

当然、フィルムで撮られてもデジタルでスキャンすれば、後の工程は一緒になります。スキャンしてしまえばデジタルとなんらかわりはない状態になります。特に、フィルムのルックを重視したい場合は、ぜひフィルムを選んでいただけたらと思っています。

――フィルムサービスの新しい展開などがあれば教えてください。

西野氏:最近特に力を入れているのがアーカイブ事業です。フィルムの素材を使って、古い旧作を最新の技術を使って甦らせるサービスを行っています。

いまでも弊社で仕上げている2作品は原版をデジタル上映した後にそのデジタルデータをフィルムにレコーディングして原版を保存しています。

木下氏:弊社では、デジタルで撮ったものでもフィルムでアーカイブするという提案をしています。デジタルデータを保存しておいても、誤って消してしまうなど消失してしまう恐れが多いです。しかし、フィルムにしておけば、100年は保管ができる、驚異的な寿命があります。保存媒体として、フィルムは最高ではないかと思います。

映像本部 映像部 アーカイブ2課長 川俣聡氏

日本に2つしかない現像所をなんとか両社で維持していきたい

――誰もがフィルム現像の継続をしていただきたいという気持ちだと思います。最後に、フィルム事業にかける展望などについてお聞かせください。

川俣氏:辞めたものを復活させるのは不可能です。日本から現像所がなくなって、10年後にもう一回現像所を立ち上げようとしてもほぼ不可能に近いと思います。日本から現像所が1社もなくなってしまったら、どうするのだろう。いつも危機感をもって取り組んでいます。

西野氏:フィルムで撮るカメラマンさんがいる限りは、ネガ現の設備は続けていきたいと思っています。ですので、できるだけ多くの人にフィルムで撮ってもらいたいと思っています。

木下氏:正直な話、本当に辞めるのは簡単です。もう辞めるといえば、終わりです。しかし、われわれも使命を持っています。日本に2つしかない現像所を両社で維持していきたいと思っています。

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Vol.07 [Film Shooting Rhapsody] Vol.09