会場となったカナダバンクーバーカンファレンスセンター
txt:安藤幸央 構成:編集部

VRは当然、ハリウッド業界がVRコンテンツに本気になった年

SIGGRAPH(シーグラフ)は世界最大のコンピュータグラフィックスとインタラクティブ技術に関する学会・展示会である。第45回となるSIGGRAPH2018が、8月12日から8月16日の5日間、北米カナダ・バンクーバーコンベンションセンターで開催された。バンクーバーでのSIGGRAPHは、2014年以来、3度目の開催となる。

今年のテーマは「ジェネレーションズ」であり、世代や年代を超えたCG映像制作や、技術への挑戦、作品への挑戦や「コンピュータによって生成された映像」という隠された意味も示唆されているようだ。

今年のSIGGRAPHでは、昨年に引き続きVR専用のシアターの設置や、大幅に拡張されたVRビレッジと呼ばれる展示コーナーなど、通常のCG映像よりもVRコンテンツ、VR機材に注目の集まったSIGGRAPHであった。

VRビレッジ入り口に展示されたMicrosoft HoloLens開発当時のプロトタイプ

そこでしか見られない、リアルタイムCGの醍醐味

一口にコンピュータグラフィックスといって様々なアプローチがあり、その中でもリアルタイムレンダリング、実時間で映像を生成し活用する分野が昨今の映像制作に大きな影響を与えてきている。ゲーム内でのCGや、VR映像はもとより、従来型の映像制作そのものがリアルタイムで可能な事柄が技術の進歩で増えてきているのだ。そういったリアルタイム技術のアピールの場として数年前から実施されているのが「Real-Time Live!」というデモ発表の場だ。

Real-Time Live!は、Computer Animation Festivalのカテゴリのひとつで、ゲーム映像や、リアルタイムシミュレーション映像、VRなど、リアルタイムでCG映像を生成して活用する映像を評価するカテゴリである。今年も大掛かりなものから、インディペンデントな個人によるものまで、その場でデモが行われるため、失敗と紙一重のデモが成功した際には、会場からの拍手喝采と笑い声が絶えない発表の場であった。その中からいくつか観客の評価が高かったものを紹介しよう。


■Democratising Mocap

デモシステム紹介画像

会場での発表の様子と、モヒカン赤ちゃんのキャラクター

米国ロサンジェルスを拠点とするVRスタジオ。Kite&Lightning社Cory Strassburger氏によるデモは、会場いっぱいの笑いとともに観客投票1位の評価であった。本デモではXsens MVNというスーツ型のモーションキャプチャデバイスを着て、顔の前にフェイシャルキャプチャ用のiPhone Xを吊り下げたリグを頭に装着し、モーションキャプチャ用のソフトウェアとしてIKINEMA LiveAction、CG描画にはゲームエンジンUnreal Engineが用いられた。

iPhone X Facial Captureテスト映像

モーションキャプチャで動き回るCG映像は、モヒカン刈りの赤ちゃん。可愛らしい赤ちゃんが大人顔負けの真面目なセリフを吐くので、会場一同大笑いに包まれた。モーションキャプチャスーツ、フェイシャルキャプチャなど個々の市販ツールは珍しくないものだが、Kite&Lightning社の今回のデモは、それらを連携させて、ライブ映像つまりはリアルタイムで映像化したものだ。また大規模なスタジオを必要とせず、スーツとリグさえ装着すれば誰でも一人で収録可能なことも評価が高い。

日本ではVTuberなどの映像で見慣れている種類の映像かもしれないが、適切にCGキャラクターにブレンディングされた動きの滑らかさ、良い意味でモーションキャプチャで動かしているという雰囲気がなく、リアルさの感じられるCGアニメーション表現であった。iPhone Xに顔認証用のハードウェアが搭載されたことを活用した作戦で、フェイシャルのみであれば CrazyTalk Animator 3 ProとLIVE FACEというiPhoneアプリで平易に同様のことを一般ユーザーも試すことができる。


■Ray-Traced, Collaborative Virtual Production in Unreal Engine

ILMxLABとEpic GamesによるNVIDIAの最新技術を利用したリアルタイムレイトレーシング描画

本デモンストレーションは、今年春のGDC(Game Developer Conference)2018でお披露目されたILMxLAB、NVIDIA、Epic共同の「スター・ウォーズ」のキャラクターを素材としたリアルタイムレイトレーシングのデモを、VR技術を活用したバーチャルスタジオ、バーチャルプロダクション、バーチャルカメラの撮影用技術としてその場でデモを行ったもの。デモプログラム等を担当したゲームメーカーのEpic Games社からはGavin Moran氏、特殊効果スタジオILMの研究部門であるILMxLABからはMohen Leo氏による発表が行われた。

会場でヘッドマウントディスプレイを装着した収録の様子

今回お披露目されたのはGDCのデモをベースとしてSIGGRAPH Real Time Live!用に拡張されたもの。会場で2人の兵士(トルーパー役)のモーションキャプチャ俳優が画面上のキャラクターを演じ、その動きをゲームエンジンUnreal Engineの付属ツールであるUnreal Engine Sequencerに取り込み、リアルタイムプレビューを実現した。描画には映画クオリティの描画表現を実現するための光の軌跡をシミュレーションするレイトレーシングが用いられ、反射などの質感の調整やノイズ除去の工夫がなされたもの。

1秒間に24コマ(映画として必要なコマ数)のCG画像として描画された。モーションキャプチャ技術としてはIKINEMAが使われている。一見大げさな仕組みに見えてくるが、リアルタイムで映画クオリティの映像が制作でき、カメラでどのショットを切り取るかといった検討や俳優の演技や演出など、全ての作業をバーチャル空間でリアルタイムに実現できるため、映像制作のための試行錯誤のスピードと試行回数が圧倒的に変わってくるとのこと。

“Reflections” – A Star Wars UE4 Real-Time Ray Tracing Cinematic Demo | By Epic, ILMxLAB, and NVIDIA

ちなみに Real Time Live !は1時間半の全編YouTubeで公開されている。現場の臨場感こそ伝わってこないかもしれないが、ぜひご覧ください。

Real-Time Live!

Electronic TheaterとComputer Animation Festival

例年のSIGGRAPHであればCAF(Computer Animation Festival)と銘打ってさまざまな分野のCG短編作品が取り上げられる。今年はそれらの映像を審査したり紹介する労力はVR分野に振り分けられてしまったらしく、毎夜上映されるElectronic Theaterにて、優秀なCG短編作品が24本上映するばかりとなった。

選出された24作品や、応募作品400以上の中から審査によって選出されたもの。選出されたのはハリウッド映画のVFXから、ハイパーリアルと呼ばれる実写と見まごう作品、コメディ作品、学生作品、科学映像作品と多岐にわたっている。

上映には昨年に続きSIGGRAPHの機材スポンサーであるクリスティデジタルの最高峰のプロジェクターChristie CP4230 3DLP(34,000ルーメン)プロジェクターと、4K映像に関してはChristie Boxer 4K30(30,000ルーメン)が用いられた。

Christieプロジェクタ設置の様子

毎年好例Electronic Theaterの目玉となる最後に上映されるピクサーの短編作品上映は主人公が肉まんで、肉まんに命が宿る、家族愛を描いた作品「Bao(バオ)」であった。日本では映画「インクレディブル・ファミリー」の始めに上映される短編作品なので、ご覧になった方も多いであろう。

Baoのポスター

監督はDomee Shi(ドミー・シー)氏で、ピクサー初の女性監督、アジア人監督でもある。Baoはピクサー短編お決まりのセリフ無しでユーモラスなストーリーで、中華料理を中心とした食べ物の圧倒的な質感表現に上映会場でも拍手喝采であった。

Bao予告編

CAF(Computer Animation Festival)受賞作

■Best in Show(最優秀賞)

作品名:Hybrids(フランス)
制作:Florian Brauch, Kim Tailhades, Matthieu Pujol, Yohan Thireau, Romain Thirion(MOPA)

予告編1分9秒(本編未公開は6分)

半分は生物、半分は機械の体をもった海に住む想像の生き物たちを描いたCG短編作品。フランスの映像学校MoPAのメンバーによるもの。水の中の生態系の変化や、水中生物の生き死にといった不思議なドキュメンタリータッチで描かれた作品。

作品が描きたかったのは海洋汚染によって生き辛い環境になってしまった海を生き抜くために、体の半分を機械化してまでも、しぶとく生き延びる生命の強さであるとのこと。油の缶で身を覆った魚、背中の甲羅が鍋で補強された亀、瓶の王冠を家にしているヤドカリなどが真に迫った様相で描かれている。アマゾン観客賞など、SIGGRAPH以外にも世界各国の様々な映像賞を続々と受賞している。


■Jury‘s Choice(審査員賞)

作品名:Bilby(アメリカ)
制作:Liron Topaz, Pierre Perifel, JP Sans(DreamWorks

予告編27秒

オーストラリアの砂漠地帯で過酷な住環境の中生き抜く絶滅危惧種で夜行性有袋類のミミナガバンディクートの主人公「ビルビー」と、能天気な鳥の赤ちゃんとが巻き起こす数々のユーモラスな出来事を描いた作品。ミミナガバンディクートは耳の長いウサギのような風貌をした大きなネズミだ。

本短編は同じくDreamWorks作品の長編映画「ボス・ベイビー」の上映前に流れる短編作品。セリフ無しで、音楽がストーリー表現に大きな役目を果たしている。またDreamWorks内で研究開発されているMoon Rayという新レンダリングツールが使われるなど先進技術を先行して試す場としての役目もあり。


■Best Student Project(優秀学生プロジェクト賞)

作品名:Overrun(フランス)
制作:Pierre Ropars, Antonin Derory, Diane Thirault, Jérémie Cottard, Matthieu Druaud, Adrien Zumbihl(Supinfocom Rubika)

予告編1分6秒(本編未公開は8分)

フランスの映像学校Supinfocom Rubikaの学生チームによる作品。暗くて寒いところにいた蟻が、魅惑的な外の世界に逃げ出す旅の道のりを描いた物語。蟻の世界を描いていつつ、人間の生活や環境にも想いを当てはめている作品。映像制作に用いられたコンセプトアートも公開されている。


以上、残念ながら今年は日本からの入選作はなく、フランス勢、カナダ勢の勢いがあった。

txt:安藤幸央 構成:編集部


[SIGGRAPH2018] Vol.02